リングダクトスピーカーは、
このように、スピーカーユニットの周りにぐるりとリング状にダクトを持つことから、そのように呼ぶようにしました。
見た目まんまですね。
この形状になるまでには、いろいろと試行錯誤がありました。
ある時、私は思いました。
バックロードホーン型では、低音を稼ぐには構造上結構大きくなることから、小型のサイズで製作するとすれば、バスレフ型になるな…
低音を伸ばして、量感を稼ぐには?
バスレフ型で低域を左右するのは、ダクトの共振。ダクトが大きな役割を担っております。
ヘルムホルツの法則により、空気室の容量とダクトの断面積と長さにより、共振周波数が決まります。
空気室が同じ容量と仮定した場合、ダクトが長くなる、またはダクトの断面積が狭くなると低域方向に音が伸びますが、量感が減ってしまう方向に。
逆に、ダクトを短くする、またはダクトの断面積が広くなると、量感が増し、またスピード感もより出ると思うのですが、低域方向へ伸びなくなります。
では、ダクトを長く、断面積も広くできれば、低域に伸ばしつつ量感を確保できるのではないか?という単純な考えがベースにありました。
ですが…
このイメージのスピーカー筺体では、ダクトを太く、長くしようにも限界があります。
ダクトをある程度太くすることはできても、それに見合うだけの長さがどうしてもとれません(後方筺体に当たるため)。
そこで、ダクトの問題を解決しようとすれば…
こんな感じで、ダクト部分を空気室の外に出してしまうと可能になります。
(上のスピーカーイメージとは空気室容量が合ってませんが、イメージとして見てください^^)
でもこれでは、あまりに格好が悪すぎます。設置するにもダクト部分で場所を取りますしね…
そこで、
後ろに伸びたダクト部分を、空気室を囲むように前方へ折り曲げてリング状としました。これがリングダクト方式を考えた経緯です。
これにより、新たにメリットがいくつか考えられます。
まず、ダクトへの入口(空気室の出口)がユニット反対面中央に開口しますが、この部分から円周状にダクトが広がります。
ここにダクト断面積の変化が生まれており、低域増強の面ではプラスに作用しているように思います。
なおイメージではユニット反対面は平らですが、ここをカーブ状の形状にする、または幅の厚みを変化させることでダクト断面積の変化を緩やかにするなどのアレンジは可能で、将来的にはもう少し追い込んでみたいと思う部分です。
次に、ダクトが太いと中高域の音がそこから漏れる割合が大きい懸念があります。
しかし、リングダクトとすることで、断面積が同じとしてもリング状にすることで幅がかなり狭くなります。これにより、中高域部分の低減効果を高めることが可能となります。
それから、次は半分デメリットでもありますが、スピーカーユニットに対して均等に囲むようにリングダクトが配置されます。正面からみますと同軸スピーカー的となり、音像の定位感は優れるでしょう。ユニットをコアキシャルタイプ(同軸2way:ツィーター+フルレンジ等)にすれば、それこそ高音から低音をカバーする同軸スピーカーという状況となります。
デメリットというのは、バスレフ型の作用として、ダクトの最低共振周波数を下回る低域部分では、ユニットの音をダクトが打ち消す方向となるために、ユニットとダクトは離して配置した方が良いとされます。
この点はダクトの最低共振周波数の設定によりますし、実際けっこう低域も再生していますからそれほど問題には感じておりません。
この中央配置、リング状のダクトというアイデアでもいけると思った背景には、当時、素晴らしい低音を再生すると評判が広がりつつあったJSP方式の構造もありました(もちろん今でも高い評価です)。
センターにスピーカーユニット、それを囲むように均等に配置された4本のダクトという構造です。そこから軽やかな重低音を再生されることから、ユニットに対して均等なリング状でも可能性は高いのではないかと考えられたのも大きいですね。
立体図を作成してみました。
より構造のイメージが分かってもらえるかと^^
ご紹介してきましたように、ユニットに対して対照配置となるリングダクトです。
これのメリットをもう少し考えてみますと…
ユニット背面から均等に広がる音の振動が、空気室出口(ダクト入口)に届き、そこから円周状に均等に広がり、そして均等に共振増幅されてリングダクトより放出されます。
イメージしますと、ユニットから均等に輪のように広がる音の振動を、このリングダクトは効率良くダクトに導いて、そして増幅を行えるように思いませんか?
また、ユニット裏面からの放出された振動は、リングダクトに均等に導かれていくことで乱れが少なく、バランスが良いと評価頂いた音質に貢献しているように感じます。
この点は構造的メリットではないかなと思います^^
まぁバスレフ型の動作原理からすると、なんだか違う話かもしれませんけどね。
リングダクトスピーカー「ダクト共振周波数の計算」(試作計算・参考)
リングダクトスピーカーの構造については、特許を出願しております。ただし、個人利用目的に関しましては自由に参考にして頂ければと存じます(使って頂けると嬉しいです)。
(追伸)リングダクトスピーカー構造の出願しておりました特許は、無事取得できました(関係者各位、有難うございました)。
2008年11月19日作成
2008年12月15日追記
2011年10月21日一部更新
2014年12月03日追記
初めまして
興味深く、記事を読ませていただきました。
私は、以前、スピーカーシステムの開発に携わっていた者です。
リングダクトについて、少しコメントさせていただきます。
まず、折り返しダクトや途中から太さが変わるダクトの問題点ですが、空気の特性として、二つを考えねばなりません。
ひとつは空気がスチフネスの大きい弾性体であるということです。
このことより、途中に障害物(細くなっている部分など)があると、そこまでの部分が一体になって運動するということです。言い換えれば、ダクト全体の空気が全て一体になって動かないと言う事です。(強さの異なるバネが直列に繋がっているイメージです)
従って、通常のダクト計算は成立しません。
もうひとつは、空気が振動する場合、壁面との摩擦により、流速が壁面に近い部分では遅くなるということです。
これにより、極端に細いダクトの場合、実際の寸法より細いダクトとして振る舞います。折り曲げ部分も同様です。
この二つにより計算値の補正が必要になりますが、ダクトの内面処理(木材の肌そのままの場合と塗装した場合など・・B&Wのようにディンプル加工をするのがベストですが・・)などによっても変化し、目安にしかなりません。
私の経験的には実測しかないと言えます。
もうひとつ気付いたのですが、『ダクト断面積が変化する部分』は、構造的にはホーンとして機能してしまうため、さらに計算値がズレます。(ダクトとしての効率も落ちます:サイレンサー効果)
断面積が一定になるように中心部のダクト幅を広くすることで計算値に近付けることができますし、中央部を空気室側に出っ張らせることで定在波を防ぐ事もできます。(製作は難しくなりますが・・)
リングダクトは、非常におもしろいアイデアですので、完成度をあげるのが楽しみですね。
それでは。
鈴木 様
大変有り難いコメントを有難うございます。
まずは、
>強さの異なるバネが直列に繋がっているイメージです
とは、なるほどイメージしやすいです。
確かにバスレフの公式をそのままは適用できないとは思っておりまして、なんらかの補正をとは思ってましたが、なかなか音という客観的なデータからはフィードバックが難しいところです。
ご指摘のとおりと認識しております。
>極端に細いダクトの場合、実際の寸法より細いダクトとして振る舞います。
これはある意味狙っているところです。
同等の断面積となる直径の大きいダクトからは得られない効果があると考えております。
とはいえ、ディンプル加工という視点はまったくありませんでした、いいアドバイスを頂いたと思います。
何か適材を貼り付けるなど出来ればとイメージしております。
また構造的にホーンとして機能することでダクトとしての効果が落ちるとのことですが、意外にバスレフ効果はしっかりしてます。
ホーンとしつつもその先にまた抵抗のあるダクト部が続きますので、ホーンの効果が逆に抑制されている一面もあるのかなと、これは想像の域です。
なんとなくうまいこと相乗効果が出ているかもしれません。
底面部の対策について有り難いご助言です。
おぼろげにイメージしておりました底面の改良が鮮明にイメージできました。
定在波を防ぐ効果からコメント頂いたように円錐状に内筒の底面を加工しようと思っていましたが、その裏側の断面積変化をうまく調整することを併せることで一石二鳥を狙えますね、素晴らしいご指摘に感謝です。
ちょっと外筒との固定方法が悩ましくなりますが、是非チャレンジしたいと思います。
これはたまたまかもしれませんが、通常のバスレフベースの共振計算でけっこう狙い通りに低音が出ている気がします。
もっと大型になればご指摘の要因によりズレが大きくなるかもしれませんが、大枠ではバスレフとしての機能は当てはまるようですね。
一般的なバスレフにしてもなかなか計算どおりにはいかない、とはいいますし、この点は試行錯誤しつつ実際に聴きながら調整していくことにはなりそうです。
それと、定位という点ではリングダクトは構造上メリットありますので、その辺りも含めてより深化させていければと思うばかりです。
この度は大変貴重な情報を有難うございました。
引き続きましていろいろとご指南頂ければ幸いです。宜しくお願いします。